開催日: 2025 年1月23日(木) 時間: 18:00-20:00
主催:
- 山﨑慶太郎(千葉県立特別支援学校流山高等学園)
- 古江陽子(筑波大学附属大塚特別支援学校)
協力: 日本OECD共同研究
開催方法: Zoomミーティング

1. イベント概要
本イベントは、千葉県立特別支援学校流山高等学園の研究開発学校としての最終年度研究発表を振り返り、その成果や今後の方向性を議論することを目的に開催されました。日本OECD共同研究の一環として、特別支援教育の固定概念を超える試みについて、多様なステークホルダーと意見交換を行いました。
2. プログラム詳細
オープニング
進行:
- 古江陽子(筑波大学附属大塚特別支援学校)
- 山﨑慶太郎(千葉県立特別支援学校流山高等学園)
- 動画①: 新領域「私の時間」実践動画〔協働編〕
- イベント趣旨説明
- 研究推進部の紹介と感想共有
- OECD共同研究 月間についての説明(田熊美保氏:OECD教育スキル局 シニア政策アナリスト)
- 参加者紹介とミニメッセージ(武富博文氏、福本徹氏、河野麻沙美氏)
第1部「特別支援教育の固定概念(あたりまえ)の壁を越える」
- 当事者の視点からの発表(10分)
- コヨ(卒業生)
- 対話の時間(ブレイクアウトルーム)
- テーマ:「特別支援教育の固定概念の壁を越えるには」
- 全体シェアリング
【卒業生の発表】 卒業生が、特別支援教育を受けた自身の経験と、社会に出てからのエージェンシーの発揮について発表しました。特に、学習環境や支援体制の影響についての具体的な事例が示され、参加者との活発な対話が行われました。
【ブレイクアウトルームでの議論】
- 学校の在り方が生徒の未来に与える影響
- 支援が必要な生徒の自己決定を促す方法
- 企業と学校の連携によるインクルーシブな社会の実現
休憩(動画②:「私の時間」実践動画〔自己分析編〕)
第2部「これからの教育を考える ~エージェンシーに関わる教育開発~」
研究発表:
「特別支援教育における、変化する社会で生き抜くための資質・能力とエージェンシーを育成する教育課程及び指導方法の研究開発」
発表内容:
- 新領域「私の時間」のカリキュラム設計
- 生徒のエージェンシー育成に関する実践結果
- 卒業後の影響(社会での実践事例紹介)
動画③: 生徒インタビュー映像
当事者との対話
- ユズ(卒業生)
【卒業生の発表】卒業生が、「私の時間」を学んだことによる自分の変化について発表しました。特に、「私の時間」での学びについて、在学時の様子や、卒業後の生活で実際に活かしている具体的な事例が示され、参加者と活発な対話が行われました。
対話の時間:
- 新領域「私の時間」の成果と未来の可能性
- これからの特別支援教育に求められる支援体制
シェアタイム(メンチメーターを活用)
クロージング(リレーメッセージ)p4~p6に議事録
メッセージ登壇者:
- 松見 和樹氏(千葉県立特別支援学校流山高等学園 校長)
- 河野 麻沙美氏(上越教育大学大学院学校教育研究科 准教授)
- 武富 博文氏(独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所)
- 福本 徹氏(国立教育政策研究所 総括研究官)
- 板倉 寛氏(文部科学省)
- 田熊 美保氏(OECD教育スキル局 シニア政策アナリスト)
まとめ:
- 特別支援教育におけるエージェンシー育成の可能性
- 学校と社会の接続に向けた新たな教育アプローチの模索
- 研究成果を広く共有し、他の学校や教育機関への展開
オンデマンドの紹介 写真撮影
イベント終了(20:00)
3. 総括と今後の展望
今回のラウンドテーブルでは、特別支援教育における「エージェンシーを発揮するための資質・能力を育成する学び」が持つ可能性と、その実践が生徒の成長にどのように直結しているかを、多角的に議論する貴重な機会となりました。流山高等学園がこれまで積み重ねてきた取り組みが、単に生徒のエージェンシーを育むだけでなく、教師のエージェンシー、さらには学校全体の共同エージェンシーへと広がりを見せていることが明らかになりました。このような連鎖的な広がりは、教育現場における相乗効果を生み出し、新たな可能性を切り拓く原動力となっていると考えます。
また、卒業生の言葉や実践例を通じて、エージェンシーの発揮が生徒の成長にどのように寄与するのかも、より明確になったことも、成果の一つです。流山高等学園の研究開発とその実践が国内のみならず、国際的な文脈でも意義を持つことが確認され、今後の展開に向けた大きな示唆を得ることができました。
今後の展望
- エージェンシーの育成に向けたカリキュラムの深化
生徒の主体性を最大限に引き出すための教育プログラムをさらに発展させるとともに、教師のエージェンシーを促進する研修・仕組みづくりを強化することが求められています。 - 国内外のステークホルダーとの連携強化
今回のラウンドテーブルで得られたネットワークを活かし、国内外の教育機関や研究者、関係者と連携しながら、継続的な情報共有と研究発信が求められています。 - 学びの成果の可視化と社会への発信
流山高等学園での実践がどのような成果を生み出しているのかを、データや事例を通じて明確に示し、教育界のみならず社会全体に向けた発信を強化します。これにより、エージェンシーを重視した教育の価値を広く伝え、より多くの教育現場に波及させていくことが求められています。 - 「ボーダレスな学び」の推進
生徒・教師・地域・企業など、多様なステークホルダーが垣根を超えて関わり合い、相互に認め合う環境をさらに広げていきます。教育を学校の枠組みにとどめず、より社会とつながるものへと進化させることが期待されています。
今回のラウンドテーブルを一つの節目としつつも、これはゴールではなく、新たなスタートです。この先も、教育の未来を見据えながら、流山高等学園は革新的な実践を続けていくでしょう。
「誰かや、どこかに貢献できること」「相乗効果で広がること」「巻き込み、巻き込まれること」の喜びを共有しながら、より良い教育のあり方を探求し続けることが、この教育に関わるステークホルダーの使命ではないかと感じています
今後の予定:
- 研究成果の公開(HP掲載・動画編集)
- フィードバックの収集とさらなる実践研究
- 全国的な展開に向けた政策提言
リレーメッセージ・記録
・松見 和樹氏(千葉県立特別支援学校流山高等学園 校長)
「エージェンシーの育成は、単なる教育手法の一つではなく、未来の社会を生き抜く力を育むための根幹です。」
松見校長は、流山高等学園の教育の柱として「エージェンシーの育成」を据えてきたことを強調。学校現場でどのように実践されてきたかを振り返りながら、卒業生の成長がその証明であると述べた。
また、「私の時間」の成果が可視化され、生徒が自分自身の学びを振り返る文化が根付いたことを評価し、今後もこの取り組みを発展させていく決意を語った。最後に、「これからも生徒一人ひとりが自らの人生を主体的に切り拓いていくことを支え続けたい」と述べた。
・河野 麻沙美氏(上越教育大学大学院学校教育研究科 准教授)
「子どもたちが自分の学びを“自分自身”を主人公にして語れるっていうことは、目指すべきゴールということを教えてもらいました。」
河野氏は、流山高等学園の教育の特徴を「枠を超えた挑戦」と位置付け、制度や従来の教育観にとらわれない柔軟な学びの場を提供していることを紹介した。特に、「私の時間」による生徒主体の学びや、ステカ(教材)を活用した振り返りが、生徒の成長を促していることを評価。
さらに、河野氏は、これまでの4〜5年にわたる関わりを振り返りながら、発表や学生のインタビューを通じて毎回心を揺さぶられると述べた。特に今回の発表では、「私の時間」で学んだことを卒業後に職場へ持ち込み、実践している姿を目の当たりにし、その変化に感動を覚えたと語った。
また、先生や生徒たちが「自分を主人公にして学びを語る」姿勢が印象的だったと指摘。これは、単に学習を受け身で捉えるのではなく、自分自身の成長として語れる環境が整っていることを示しており、その点に対して教育学者として自身も反省する部分があると述べた。
最後に、子どもたちが「自身の学びを、自分を主人公にして語れること」が一つの目指すべきゴールであると強調し、今後のさらなる発展への期待を寄せるとともに、自身も努力を続けていきたいと意欲を示した。
・武富 博文氏(独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所)
「『学びっぱなし』『教えっぱなし』ではなく、学んだことの意味や価値を咀嚼し、結晶化させることが大切です。」
武富氏は、「私の時間」が学校教育の中心となる時間として機能することの重要性を強調した。従来の学びが「学びっぱなし」「教えっぱなし」になりがちであることを指摘し、「学んだことの意味や価値を咀嚼し、結晶化させることが大切だ」と述べた。この「結晶化された学び」とは、単なる知識の習得ではなく、時間をかけて深く定着し、社会に出ても活用できる力となるものである。
また、知能には「結晶性知能」と「流動性知能」があるとした上で、特に結晶性知能は生涯にわたってじわじわと伸び続ける特性があると説明。「私の時間」の取り組みが、子どもたちにこの結晶性知能を育む基盤をもとに、学校で学んだことが社会に出てからも活用されるよう流動性知能の育成とも関連付けられていることを示したと述べた。その具体例として、発表された生徒の成長や学びの継続性を挙げ、取り組みの成果を評価した。
最後に、四年間の取り組みを振り返りながら、「この学びのあり方を提言できたことが大きな成果であり、非常に学びの多い機会だった」と述べ、感謝の意を表した。
・福本 徹氏(国立教育政策研究所 総括研究官)
「私たちの仕事は、ただ知識を伝えることではなく、生徒が『自分で考え、決めて、行動する』ことを後押しすることです。」
福本氏は、流山高等学園での実践を振り返りながら、教師の役割の変化について述べた。従来の教師は「教える人」としての役割が強調されてきたが、今の時代は「生徒の学びを支える人」に変わりつつあると指摘し、「エージェンシーの育成は、社会全体が求めるスキルです。学校だけでなく、企業や地域とも連携していくことが大切です」と述べ、教育と社会の接続の重要性を強調した。
また、教育における「モデル」の重要性にも言及した。社会には依然として旧来の学校像や教育観を引きずっている人が多い中で、新たな学びのモデルを示すことが、非常に価値があると強調。価値を理論だけでなく、実際の教育現場でどのように実装するかが重要であり、それこそが流山高等学園の取り組みの一つの大きな意義だと語った。
最後に、「教育にはまだまだ取り組むべき課題が多く、教師自身も学び続けなければならない」と述べ、教育の発展に向けた継続的な努力の必要性を改めて訴えた。「私自身も含めて、まだまだやるべき仕事はたくさんあります」と語り、教育現場のさらなる進化に向けた意欲を示した。
・板倉 寛氏(文部科学省)
「この実践は、他の国や他の学校種でも適用できる可能性を持った、普遍性のあるものではないかと考えています。」
板倉氏は、この実践は、非常にシンプルでわかりやすく、特別支援学校に限定されるものではなく、他の国や他の学校種でも実践できる普遍的な取り組みになりうると強調。他の学校が流山の取組を踏まえて実践を行なおうとする際には、手段であるカードの活用そのものを目的化することなく、実践の目的として何を生み出そうとするのかという本質を見極めることが重要であると述べた。
また、今後の展望として 二つの点を挙げた。「生徒が自身の歩みを振り返り、学びに活かすこと」と「学びの習慣化と将来への継続性」である。一点目は、高校3年間の学びを深めるには、高校在学時の振り返りのみならず、中学卒業までの経験を振り返り、自己認識する機会を持つ意義の可能性を指摘した。二点目の将来への継続性については、「学びが本当に生徒の中で根付いているのか」を卒業生や生徒の発表時に特に注目していたが、卒業生が職場でもワークシートの活用を自ら思いつき実践し、自らの成長に結びつけている姿を見て、その成果を評価した。学びが3年間で終わるのではなく、その後の人生にわたって活かされることこそが、この研究の成果として重要であると述べた。こうした変化が他の生徒にも広がる形に発展していくことが今回の研究が成功した証と言え、広く横展開される意義深いものとなることを期待するとした。
・田熊 美保氏(OECD教育スキル局 シニア政策アナリスト)
「エージェンシーは、単なる定義の適用ではなく、文化や環境に根付くことで初めて意味を持ちます」
田熊美保氏は、流山高等学園の「私の時間」の取り組みを、OECD本部で50を超える参加国で議論を重ねる「LearningCompass」や「Teaching Compass」の日本の優良事例として発信することを提案。その理由として、エージェンシー(主体)は単なる定義の適用ではなく、文化や環境に根付かせることが重要であり、流山高等学園が 4 年間をかけて独自の定義を確立し、それを実践してきた点を評価した。また、エージェンシーの本質は、単なる目標設定ではなく、その根底にある「自分が動けば社会が変わる」「自分の生活が変わる」という自己効用感を持つことが不可欠であると指摘。流山高等学園の生徒が、自己の成長を振り返りながらセルフケアやヘルプシーキングスキルを身につけていることを高く評価した。コロナ禍以降、多くの国で教師や生徒のバーンアウトが課題として指摘されており、「私の時間」の取り組みが、社会に出るために必要な力としての自己調整能力や主体性を育む点で有益であると述べた。