こども・若者の居場所づくり座 座長の伊熊公一です。
今回、「2040年の持続可能な居場所づくりの もがき と ゆらぎ」というワークショップを日本・OECD共同月間(後援 文部科学省・こども家庭庁)で開催させていただきました。
このワークショップの運営にはFor Everyone Studyや OECD生徒部会 日本支部 Flying pEnguinsから約20人の学生さんが運営に関わってくださいました。
また、お忙しい中、以下の報告記事についても参加や運営に協力していただいた学生さん(For Everyone Study)から大変貴重な視点から作成をいただきましたので、以下ご紹介させていただければと思います。
〈なぜ2040年を考える必要があるのか〉
まず初めに、植竹智央さん(For Everyone Study代表)の進行のもと、意見ブレインストーミングとして、「わたしにとって自分らしくいられる居場所の要素は?」という問いに対して、ワードクラウドを使用して意見交換を行ないました。
その後、オープニング全体進行を担当する伊熊公一さん(こども・若者の居場所づくり座共同座主、元内閣府「子供と家族・若者応援団表彰」等選考委員会 委員)からは、以下のような問題提起が行われました。
今年のOECDのテーマは「過去を超え、常識を超え、国境を超え、2040年の日本を教育からデザインする」であり、2030年までが少子化の流れを変えられるラストチャンスだと政府も名言している。
しかし、人口減少と高齢社会が進む中で、子どもの声はますます届きにくくなっており、子ども政策についても「自分の意見が聞いてもらえていると思わない・わからない」が8割を占めている。
また、教師不足が深刻化し、学級担任不足や部活動の継続困難など学校運営にも影響が出ていることで、子どもたちの「やりたい」を支えにくい現状が生まれている。
さらに、公的支出データでは、日本の教育支出はOECD加盟国平均を下回り、年々その割合が低下している。様々な背景により。学校だけに支援を委ねることには限界があり、そのため、今ある居場所の運営にとどまらず、地域とともに未来の居場所を考え、こどもや若者の声を反映しながら支える仲間を増やしていくことが求められている。
〈それぞれの考える2040年の持続可能な居場所づくり〉
その後、進行が中野謙作さん(一般社団法人栃木県若年者支援機代表理事) に変わり、4人の登壇者の方に「2040年の持続可能な居場所づくり」について話題提供をしていただきました。
①相田康弘さん(山口県下関市立長府中学校 校長 元文部科学省学習推進課コミュニティ・スクール推進係長)
【学校と地域の連携とそれを可能にする持続可能な学校運営】
学校には、学級/授業/学校行事/部活動と、さまざまな居場所がある。
しかし、部活動の地域展開や働き方改革により、子どもたちの居場所が減りつつある。
そんな中で、現在地域の方々と連携し、生徒が学校外イベントや活動に参画できる機会づくりに取り組んでいる。
学校内でも保健室や特別支援学級等の居場所づくりに励んでいるが、学校外にも活躍できる居場所をつくることで、こどもたちが安心感や役割を得ながら、自分らしく過ごせる多様な居場所の確保につながっている、
また、生徒が参加したイベントに対して、地域貢献活動証明書を発行することで、担任とのやりとりも増やすことができている。
②中西美裕さん(大阪大学大学院 人間科学研究科)
【学校内居場所の実践と持続可能な運営】
教員の労働過多や、こどもを取り巻く困難の複雑化・潜在化により、現在の学校現場は限界を迎えつつある。
特に高校生は制度の狭間に陥りやすく、支援につながる前に中退してしまうケースもある。
そんな中で、学校と民間が連携して実施する校内居場所カフェでは、相談がなくても飲食をきっかけに立ち寄れる仕組みを校内に作っている。
教師はあくまで教師であり、教師だけでは受け止めきれない子どもの声もあるため、学校とは異なる立場の大人が関わることに大きな意義がある。
校内居場所カフェは、こどもの声を聞くことができる多様な選択肢を広げ、教員以外の大人が学校にいることが当たり前の社会につながる実践である。
③今木とも子さん(NPO法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆい)
【地域の居場所とそれを可能にする持続可能なNPO運営】
沖縄は他県よりも貧困率が高く、経済的要因・地理的要因・歴史的要因などが重なり、「構造」として解決に向かうのが厳しい状況にある。
そんな中で、ユースセンターでは特に若者支援に力を入れ、匿名性や若者だけでいられる安心感を大切にした居場所づくりを行っている。
また、企業連携による「Arch to Hoop」では、子どもと大人がバスケットボールを通じて交流を深める機会をつくっている。
これまでのハイリスクアプローチに加えて、ポピュレーションアプローチも行えるようになり、ハイリスク層だった子どもが継続的な支援の中で地域の居場所につながる例も生まれている。
子どもが求めるものは時代によって変化しており、その答えを大人だけで決めるのではなく、子どもの声そのものをエビデンスとして捉え、自分たちの声で社会は変えられるという感覚を育むことが重要である。
④松田香林さん(認定NPO法人 Living in Peace)
【全員プロボノによるNPOによる持続可能な地域の居場所づくり「小さな居場所の百貨店」】
古民家をリノベーションし、一か所で多様な子どもの居場所を定期開催する「小さな居場所の百貨店」では、地域の大人たちと Living in Peace(以下、LIP)が役割分担をしながら運営を行っている。
地域の大人が子どもたちの相手を担い、LIPがバックオフィスを担うことで、それぞれの強みを活かした持続可能な仕組みづくりが行われている。
また、LIPで集めた資金は人件費にはほとんど使わず、事業に回すことができている点も特徴である。
さらに、メンバー全員が他に本業を持っていながらも、本業を優先しつつ、特定の個人に依存しない「カリスマ不在モデル」を採用し、メンバーの入れ替わりがあっても居場所そのものが継続できる体制を整えている。
今後は、永和町やLIPだけで閉じるのではなく、他地域や他団体にも横に広げていくことで、2040年に向けた子どもの居場所ネットワークの拡充を目指している。
登壇者の方のお話を聞いた後、3つの話題に関してブレイクアウトルームで話し合い、主に以下のような意見が得られました。
①自分らしくいられる居場所の要素
安心できること/否定されない・受け入れられる/自分らしくいられる/人との繋がり/自分の意見が言える/ちょうど良い距離感
②自分らしくいられる居場所を創るために必要なこと
安心できる雰囲気・受容/人との関係性/自由・余白・押し付けない環境/多様性の尊重/行動・小さな挑戦/社会・地域で支える仕組み/選択肢の多さ
③持続可能な居場所を実現するためにはどうしたら良いか
最後に研究者とこども家庭庁・OECDの3者からコメントをいただきました。
◇林大介さん(東洋大学 准教授)
こども基本法でも、こどもの声をきくことが法律的に義務規定となり、こどもが関わることを決めるときに、当事者であるこどもの声を聞くことが大切である。
こどもの権利保障や意見表明参加、安心な場づくりなどに関わる中で、昨今はこどもの権利条例づくりに関わることが増えてきているが、その中では、今、こどもたちにどんな権利が必要でどんな権利が制限され保障されていないのか等を色々な環境にあるこどもたちの声を聞きながら考える必要がある。18歳未満のこどもは有権者ではないが、主権者であり、市民である。生まれた新生児も一人の人間であり、そこをしっかりと大人が尊重しているかも考えなくてはならない。こどもの時から、関わる様々な場所で実感をもって民主主義が保障されていくことが重要である。スウェーデンでは「学校は民主主義の砦」という表現が使われることもあった。生徒自身が自分たちのルールとして学校のルールを決める。学校の校庭にどのような遊具を入れるのか、など自分たちの声でしっかり決まっていくことが重要である。そのために、大人自身も民主主義を感じられる環境づくりも併せて重要であり、考えていく必要があるテーマである。
◇大山宏さん(こども家庭庁 成育局 成育環境課 居場所づくり推進官)
今日は、ありがとうございました。貴重なお話も多く、居場所づくりの取り組みは、居・場所というように空間的なものをイメージしやすいが、人との関係性や体験も居場所になり得ることを認識しているところである。例えば、信頼関係に基づく「安心感」などは、関係性に居場所が存在するケースであると思う。人との出会いや共存、見守りの要素は非常に重要であると考えている。大人自身が背中をみせながら「失敗する姿」「楽しんで過ごす姿」「挑戦している姿」などをこどもたちに伝えることも大切と考える。また、居場所の持続性を考えるときに、同時に地域全体の在り方(取り組みや活動・ちから)を考えていくことも大事であることを認識している。今回発表のあった本業やプライベート優先でのプロボノのカタチは、「ここまでできるかも」を無理なく実践していく事例であり、「楽しいからやりたいよね」で参加が続く構造が様々な場所でつくられていくことにより、居場所の可能性も広がりをみせていくように思うところである。
◇田熊美保さん(OECD 教育スキル局 シニアアナリスト)
①居場所はだれがつくっていくか
「誰」の部分では、教育と福祉の共通言語が、北欧モデルと比較したときに強化を図れる部分であると認識している。産官学連携については、どうすればうまくいくかという条件に踏み込んだ(誰が、どうやって)のモデルが日本独自のものが生まれてくると考えている。
②居場所の議論は民主主義の根底である
・ひとりひとりのこどもが0歳のときから、個人の尊厳を持つ主体として尊重され生きているか。
・学校の先生が同僚を個人の尊厳を持ちリスペクトできているか。
・家では、こどもを個人の尊厳の主体としてみているか。
・「しつけ」という言葉で、安心や安全が奪われていないか。
権利を大切にした居場所づくりでは、学校でも、家庭でも居場所と感じられるよう個人の尊厳を大切にしていける空間を増やしていくことが大切である。
③評価について
制度をきちんと評価したいと15歳を対象に様々な指標をみている。
学力以外にも精神的なウェルビーングやエイジェンシーや失敗から立ち直れる力などがあり、2022年のデータでは、Academic Performanceでは、諸外国の平均を上回る日本であるが、失敗してもよい文化を測るResilience(fear of failure という「失敗を恐れる」という指数に注目)では平均より低い状況にありアジア圏に多くみられている。様々な指標のバランスのよい北欧の国も存在していることを考えると、学力を維持する方法として「勉強」だけでなく、「失敗からの学び」も貴重であることを知っていただきたい。
企業がこどもと関わりながら価値観のアップデートを図る事例も大変興味深く、モデルや制度のアップデートも重要であるが、それを活用する人の価値観をアップデートすることも大切であり、ソフト面とハード面を両立しながら、変っていくことが必要であると考えている。
そして以下は、当日参加した方の感想です↓
①ブレイクアウトルームでファシリテーターを務めた大学1年生
→実際に現場で子供たちに働きかけている方々からお話を伺うことができ、様々な刺激を受けました。
「居場所」についてや、ボランティアの持続性など、難しい議題も多かったですが、自分のボランティアへの向き合い方について考えをアップデートする機会になりました。
②ブレイクアウトルームで書記を務めた高校2年生
→今回のワークショップでは、最初の4名の方の講演が特に印象に残りました。
それぞれが居場所づくりのために個々のアプローチの方法を持つ中で全てに共通するのが「子ども主体」であったので、私自身のボランティアに対する姿勢や考え方、視野をさらに広げることができ、有意義な時間を過ごせました。ありがとうございました。
以上となります。
今回、ワークショップの運営や本記事の作成にあたっても、多くの方にご協力をいただきながら、つくりあげることができました。関わってくださった皆様に心から感謝を申し上げます。