/// 現代の出島的存在 ///
在外教育施設ネットワークチームの三浦一郎(プラハ日本人学校)です。
日本ではインターネットなどを介しての情報はいくらでも手に入りますが、肌感覚で他国の情報にはなかなかアクセスできません。
EU圏内では、本当に情報が驚くほど流れています。(EUという仕組みの凄さに改めて驚きます。)TVを見ると各国のチャンネルも含めて300チャンネルほどあり各国の今や文化がニュースや番組を通して発信され続けています。人々がパスポートなしで国境を越えて旅行し、移住した人々がたくさんいます。「そっちの国ではどうしてんの?」というやりとりが日常茶飯事のように生まれています。
島国生まれ、島国育ちの私は他国の人々と簡単に情報交換、対話が生まれる環境に羨望を抱いてきました。いいなぁと思うと同時に、そういう環境にないことに悔しさも感じていました。
だからこそ在外教育施設の先生方はKeyPersonだと感じています。まずは、在外教育施設に関わる人々のネットワーキングを進めることで見えてくることがあるはずだと感じ、3月にOECD・海外子女教育財団のサポートを得てネットワーキングを呼びかけました。多くの方からのリアクションがありました。
特に補習校の先生方から多くの応募がありました。補習校の先生方は私たち文科省派遣の日本人学校の教員と違って、はるかに現地在住経験が長く、現地の事情にも精通されています。その分、葛藤も多く、だからこそ今回応募くださったのだと分かってきました。お一人お一人と1時間程度インタビューの時間をいただき応募の背景などを聴かせていただきました。
これまでオンラインで3回ほど、それぞれ参加の動機や、課題意識などを共有して、互いの理解を深めてきました。自身の原体験から深掘りすることで、自分の中での一貫性や、なぜそのプロジェクトに関わるのかがはっきりとします。自分と自分が創るプロジェクトが心底で繋がっていることが決定的に重要なのです。

そして、この夏。7月6日・7日、8月1日・2日とそれぞれパリのOECD本部&ブローニュオフィスに仲間と行ってきました。7月は4名で、8月は9名で。
フランス、ドイツ、タンザニア、フィンランド、ベルギー、チェコからメンバーが集まりました。(そして、8月2日は、文科省からOECDに出向された八田 聡史さんの初当庁の日でもあり、共に議論を交わしました。)
みな、日本の教育システム(文化)で育ちつつ、違う教育システム(文化)を目の当たりにしているメンバーばかりです。日本での当たり前がすでに崩れているメンバーでの議論はとても面白いです。外国の文化や教育システムを自国の説明として日本語でも聞けるのはとても貴重な機会です。
在外教育施設は、日本語でコミュニケーションが取れる日本国外にある“出島“のような存在にもなれる可能性を秘めています。

1日目は日本語メインで、2日目は英語とフランス語でのコミュニケーション。私の英語はまだまだですが、皆さんの力を借りると何とかなるもんですね。「言語間の民主主義」という考え方もあることを初めて知りました。(EUでは加盟国の各国語が平等であるという原則。ある特定の国の言葉を公用語にすることをしない。とりわけ加盟国が自国語で発言でき、EU市民は自国語でEUへの政治参加ができる。もちろん通訳をはじめ多くのコストもかかるのですが。)
OECDスタッフEsther達から、私たちのチームに対して3つ提案がありました。
1 日本と海外との学校のパートナーシップにつくる
2 日本の教育の強み・新たな可能性をレポートする
3 教職志望者のサポート(教職志望者自身がデザインする新しい教職課程)
それぞれのグループに分かれて、それぞれのプロジェクトの方向性についてのプレゼンテーションを突貫で作り、最後にプレゼンテーション。在外教育施設ネットワークinEUの方向性も少しずつ見えてきました。
この2日間、何か予め決まりきったプログラムがあるのではなく、その場で生まれてくる2日間のプログラム。フランス流のおもてなしの下、心地の良い対話が自ずと進んだり、イギリスに逆輸入された舞踏(BUTOH)のワークショップを通して自らのからだに気づき時間があったりするなどメンバーの“才”が溢れ出る2日間でもありました。
私がOECDとの協働で感じる面白さは次の3つです。
(1)マルチステークホルダーアプローチ
国の代表や研究者が大きな方向を決めて、教員・子どもはそれに従っていくという構図ではなく、様々な関係者が同じテーブルで議論・対話を通して進めていく。
(2)インタラクション・ファースト
何か固定化された知ではなくて、やりとりの中から生まれている知こそが、物事を動かしていく。
(3)全てはAgencyから始まる
Agencyを決して手放さないこと。Agencyを阻害する外部要因は山ほどある。Agencyを持つ仲間と組み阻害するものを一つずつ剥がして(時には上手く避けて)、小さくとも新しい未来を手元から生み出していく。
これから“多様な出島“の仲間と、面白いことを仕掛けていきたいと思います。
今回私たちを温かく受け入れてくださったOECDのMiho、Esther、Aynur 、Maximeに感謝しています。
