TWG3座長の後藤です。2024年9月6日と9日、TWG3のワークショップ「困難をかかえた多様な子どもたちを包摂できる教育制度、学校の在り方、教員の働き方、教員のウェルビーイングとは②③」を開催しました。6日のスピーカーは、沖縄県名護市の元スクールカウンセラー(SC)で現在は大学教員の岸本琴恵さん、京都府の元小学校教員の竹本茂さんでした。また、9日のスピーカーは現在、滋賀県湖南市で教育長をされている松浦加代子さんでした。ここでは、2回のワークショップの内容をあわせて報告します。
第2回では、はじめに共同座長の柏木先生から前回の議論を踏まえ、次のような提案を頂きました。
・困難を抱える子どもたちとそれ以外の子どもたちの学びを区別して捉えるのではなく、全ての子どもが他者の存在を認め、多様性を認めながら相互作用していくこと、そのことを通じて民主的な社会を担う主体を育てていくような学校のあり方が求められているのではないか。
・子どもをニーズの充足の客体としてだけ見るのではなく、お互いに支え合う主体として見ることが重要である。具体的には、子ども自身が他者のニーズに応答することが良いことだ、と感じられるような場づくりが求められている。
・学校の機能を二段階で捉えること、すなわち、学びの機会保障を行うためには、個別のニーズに応じる福祉的機能の充足のうえで、みんなで学び合う場になっていくことが必要である。
次に岸本さんから、名護市が不登校数を半減させた頃の教育委員会・学校のあり方、ケース会議の効果的な実施方法について話して頂きました。要点は以下の通りです。
・名護市では、2000年代後半、「授業のなかでどう困難を抱える子どもたちを救っていくか」を重視するようになった。その結果、名護市は不登校を半減させた。当時の教育委員会のスローガンは、「どの子も絶対排除しない、全ての子どもを救う」だった。
・その後、2012年頃から教育と福祉の連携が進み、福祉職員がケース会議に参加、主導するようになった。そのことでスムーズに対応できる事例も増えたが、逆に教員が話す機会が少なくなった。学校として、教師として何をするかが語られなくなった。
・さらに、教育委員会が学力向上を強調するようになったことで、不登校数が元に戻ってしまった。
・こうした状況を変えるためには、ケース会議の持ち方を工夫する必要がある。一例として、教員が中心となってケースを検討するインシデント・プロセス法というものがある。まずはケースの紹介を5分程度で行う。資料は作らない。そのあと、教員が4人グループで協議。その後、協議の結果を発表する。先生同士の出すアドバイスは実に的確。先生同士の対話で先生はエンパワーされていく。しかし、最近は先生が忙しすぎて、こうした活動が十分にできていない。
・授業のなかで子どもを救うとは、ケアと学びを同時に追求していくことである。具体的には、①子ども同士をつなぐことを重視。おとなりに聞いてごらん?ということの推奨。②分からないときは分からないと言っていい、という雰囲気づくり。③夢中にさせるために教具を工夫し、それを介して子どもたちがコミュニケーションするような授業。さらに、④授業中に絶対に不安がらせないこと、怖がらせないこと。
さらに竹本さんからは、児童養護施設から通う子どもが比較的多く通う学校で6年間校長を務めた経験を中心にお話をうかがいました。要点は以下の通りです。
・児童養護施設から通う子たちは、経済的に厳しく、文化的にも底辺に置かれている、社会関係資本も少ない子たちを含めてどういう学校を作っていくのかを考えてきた。
・厳しい状況の子こそ、仲間の力によって支えられる。そうした子たちを含め、全ての子どもたちに仲間とのつながりをどう保障していくのか。まずは一斉指導を前提とした教育目標を変えることにした。目標として掲げたのは、「全ての子どもがつながって、将来の社会的自立を目指して、力を伸ばしあう学校」。子どもたちがつながる、ということを最も重要な価値において、その先に将来の社会的自立を目指すということを最上位の目標として教育活動を行ってきた。
・さらに、特別活動もまるごと作り変えた。先生だけが頑張るのではなく、子どもたちも自分たちの課題として、お互いの違いを理解し、どうすればみんなが幸せになれるか、子どもたちも含めてみんなで考えましょう、ということを重視。例えば、運動会はやめた。みんなが幸せになるためにできることは何か。3時間で何をすればいいか考えてごらんと投げかけた。子どもたちにも、競争がいやな子がいる。体は動かすが競争にならないようなものを考えていき、スポーツ集会という形になった。
・関係機関との連携やSC、SSWとの連携においても、「子どもの最善の利益」の保障という目標の共有を重視してきた。教員はそもそも連携に慣れていない。一人一人の力量形成ではなく、先生も含めて手を借りながらやることを当たり前にしていくこと。「受援力」を一人ひとりが持つことを重視してきた。
・子ども自身を巻き込んだ教育活動の展開。授業で大事にしたことは、「分からないといえる子どもたちをつくろう」「分からないという言葉から授業を作っていこう」ということ。
その後、参加者とともに意見交換を行いました。教員の異動があるなかで、いかにして目標を共有していくかという質問に対しては、異動してきた教員は最初は子どもたちの置かれた厳しい状況にショックを受けるけれども、教員同士のサポートを通じて考え方を変えていく、しかし自分の指導観を変えられない教員もいるのでそういう方は数年で再び異動していくという返答がありました。また、ケース会議の効果的な実施方法や、学校の目標設定とそれを地域も含めて共有していくことの重要性、学力向上とどう向き合うべきか、社会的自立をどう定義するか、なども話し合われました。最後の社会的自立に関して、あらかじめ定義するよりも教員どうしでともに考えていくようにしたこと、ただし基本的にはすべての子どもたちが他者とつながり合いながら、自分の幸せを作っていけること、自分の力で社会を変えていけるようになることではないか、という話が竹本さんからありました。
*すべての生徒を想う♡マーク
第3回では、発達障害や不登校の子ども、日本語の習得に困難を抱える子どもたちを幼児期から就労期に至るまで多機関連携を通じて支援する発達支援システムを実現している滋賀県湖南市の教育長、松浦さんにお話をいただきました。要点は以下の通りです。
・湖南市は外国人の居住率が高い。学校によっては3割が外国につながりのある子である。また、特別支援学級利用者は全体の1割ほど、特別支援学校在籍者も含めると2割になる。こうした子たちが、連続性のある多様な学びの場と、地域のなかで育つことを重視してきた。
・特別支援教育について、学びの場の分断なのか、多様な学びの場があると捉えるかという議論はあるが、本市が重視してきたのは義務教育終了時点で自分の強みも弱みも理解したうえで、進路決定において自分の意思を表明できるようになっていること。
・不登校児童生徒の支援においては、学校内外の支援者が子どもの認知特性をつかみ、適切なアセスメントを行うこと、授業や学級の改善という視点を持つこと、将来の社会参加を見通した支援をすること、などを大切にしてきた。
・発達支援システムとは、ヨコの連携で言えば、教育委員会と就労や福祉、子ども・子育て系の部局との連携であり、さらに横断的人事配置として、教育委員会に社会福祉士を配置、健康福祉部の発達支援室長に特別支援教育を担当してきた教員経験者を配置するなどしている。
・タテの連携のツールが個別の指導計画。個別の指導計画の作成率が高く見えるが、これは子どもたちに自分自身の強み・弱みを分かったうえで高校や就労に繋がっていって欲しいと考えているから。中卒の段階では、本人も参加して「個別の指導移行計画」を作成している。
・高校への引き継ぎとしては、指導主事が高校訪問を行い、高校教員と顔の見える関係を築くようにしている。今年は68校に訪問。これをすることで、高校からの支援に関する相談も来る。
・発達支援室長が教員であることのメリット。乳幼児支援においては、幼保・子ども園における集団指導のあり方をアドバイスできる。また、室員とともに小中学校の頃から情報を把握しているので、高校生になってからの相談にも適切に応じられる。さらに、室長経験者がその後管理職として学校に戻ることで、発達支援の観点から学校経営を行うことができる。こうした循環が生じるように、室長の候補者を発達支援の経験者で「つなぐ」ことを続けていることが、湖南市の特徴である。
・日本語教室の利用率は小学校で6.5%、中学校で6.7%である。取り出しで指導をしているが、通常学級の授業でどう他の子どもたちとつないでいくかが重要である。そのため、日本語が不得意でも授業に参加しやすい特別活動を重視している。
その後、意見交換を行いました。タテの連携の重要性とその難しさ、発達障害と日本語習得の不十分さとの見極めの難しさ、いかにして一般の教員も外国につながりのある子どもたちを受け入れられるような環境を作っていくか、などが参加者で共有されました。また、前回からつながる話題として、学校のあり方を包摂的にするうえで、教師主導と福祉主導のバランスをどう取っていくかということも検討されました。教師主導はともすると抱え込みが起こりがちである一方、福祉主導だと教師の主体性が発揮されにくい傾向があることについて、松浦さんのお答えでは、事前の目線合わせが大切であること、受け身のケース会議にならないようにすること、授業では困難を抱える子を中心に子どもたちのつながりを作っていくことを重視していることなどが話されました。
以上が第2回、第3回のワークショップの概要となります。第1回からの議論を通じて振り返ってみると、以下のことが多くの参加者・スピーカーの議論における「重なり合う合意」として浮かび上がってきたように思います。
①困難を抱える子を中心に、多様性を認め合いながら、いかにして相互作用の機会を保障し、支え合う教育活動を行なっていくか。みんなが幸せになるために、周りの環境・社会を変えていく力を育てられるか。そして、こうした目標の共有をどのようなプロセスで進めていくかが重要である。
②教師個々の力量形成だけでなく、教員同士が支え合い、協力を求めていく文化をいかにして作っていくかが重要である。言い換えれば、自分一人で仕事を進めるのではなくチームで責任を共有しながら仕事を進めようとするマインドセットが求められる。
③教育と福祉の連携については、いかにして教師のエンパワーメントを重視しながらSCやSSWとの役割分担を図っていくか、また多機関連携(教育行政と子育て・福祉・就労系部局との連携)においては、今困難を抱えている子のためのヨコの連携だけでなく、子どもの成長・発達に応じたタテの連携(情報連携と教職員・専門職・行政職員どうしの顔の見える関係)が重要である。
*「校長笑顔率世界一」の笑顔